中日新聞ドクターズサロン:口裂けても言いたい話2023.2.28.
大学に入り一人暮らしを始めた頃、名古屋は「口裂け女」のうわさ話で大騒ぎだった。ひとが集まればその話題で、新聞も現れた時間と場所を掲載しており、誰もがこのオカルトを体験したような雰囲気だった。アパートは墓地の隣で、今から思えばまだあどけない未成年だった私もおびえる毎日だった。このうわさ話はすぐさま全国へ広がり、テレビも取り上げた。
話をたどれば江戸時代から岐阜に伝わる逸話。教育ブームで塾帰りに子が夜遅くに街をうろつく姿を見かねた高齢者たちが早い帰宅を促そうと、逸話を語ったのが出どころだったらしい。当時の岐阜は好景気で地方から来た労働者家族であふれており、夏休みに帰省した際、各自が語ったオカルトが広がったのだ。
今では深夜まで外にいる子どもの姿は珍しくなくなった。一方で、少子化は続くのに、朝起きられず学校に行けなかったり、学校で寝たりする子は年々増え、どの睡眠クリニックも対応に苦慮している。起きられない前に夜眠っておらず、眠っても時間が足りない。昼夜逆転するとますます家から出られず、受診さえままならない。
国によると国内には約百十五万人の引きこもりと約三十万人の不登校の子がいる。その数は増え続けているそう。これはオカルトだと思いたくなるが、厳しい現実の話だ。