2022年度中日新聞ドクターズサロン「コロナ下での新しい不眠」2022.4.26.
今年度もドクターズサロンを1年間書かせて頂くこととなりました。新年度に挑んで気持ちを新たに書かせて頂きます!
このコラムを含め還暦を過ぎてから書き残す言葉は、全て遺書のつもりだ。死後の自分から今の自分に「次世代に何を残せるか自問しろ」と言われているつもりで、日々取り組む睡眠医療と同じく頭をひねり続けたい。
社会は常に動いている。これまで人間は文字でつづられた文章から物事を想像してきたが、最近は交流サイトに投稿された一枚の写真が社会を動かす。
デジタル化に加えコロナ禍で、睡眠と密接に関わる生活習慣は様変わりした。外出自粛が叫ばれる中、リモート作業をはじめとする行動の変化は、新しい睡眠障害を生み出している。コロナ禍前の世界に戻したところで、こうして生まれた睡眠障害がなくなるとは考えにくい。
耳鼻科医である私がなぜ睡眠を専門にするのか―。普段からよく尋ねられる質問だ。睡眠医療が注目されるきっかけになった疾患は睡眠時無呼吸症候群(SAS)。息を吸ったり吐いたりする入り口は耳鼻科の領域だからというのが、質問への一つの答えだろう。
しかし、SASの歴史は五十年程度。一方で、不眠や寝言といった睡眠障害は遠い昔からある。睡眠の診療が難しいのは、社会や生活の変化といった目に見えない因子が絡むからだ。日々の外来は、まるで探偵物語を読むかのようで、楽しく、苦しい。