院長ブログ

PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)は高齢者に適応しない?

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監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

 1985年からめまいに興味を持ち、教科書通りの勉強から診断と治療を行ったものの、どうも腑に落ちないタイプの患者がいました。例えばメニエール病は内耳圧が上がるため、回転性めまいや難聴が起きるのですが、なぜか発作は一回だけで、内耳圧が退いてもふわふわする、頭がぼっとする、出かけると気分悪いから家に閉じこもる・・・などと、不可解な症状を訴え続けます。
きっと心因的素因が絡むと思い、米国で影響を受けた心理療法を導入し、1998年にはめまい患者に集団精神療法を行った論文を報告しました。これに影響を受けたという後進の五島史行先生や清水謙祐先生は、今ではこの領域を牽引するリーダーとなりました。同じ頃、世界各国でこの不思議なめまいについて、それぞれの考えと治療が行われました。
 名古屋市立大学に移った2010年頃、ある若手・近藤真前精神科医が来られ、自分が研修医の頃、救急外来でこの不思議めまい患者を多く見かけ、これは絶対精神科医が関与しないといけないめまいだと気づいたとのこと。この不思議なめまいを研究テーマにしたく、大阪から名古屋に就職したと聞き、大変感動しました。研修医の段階から世界の奇病を解明しようとしたこの若者を精一杯サポートすることを心に決めました。
 早速全国のめまい専門家に声をかけ、多施設研究を行い、この奇病のための第一報を発表しました(Health & Quality of Life Outcomes, 2015)。その後この疾患をテーマとした科学研究費を多数取得し、2017年にPPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)としてまとめられるまで、複数の論文報告をして参りました。PPPDを主にまとめ上げたのは、メイヨクリニックのStaab JP先生と現新潟大学堀井新教授であります。残念ながら近藤医師も私も名古屋市立大学を去り、本邦におけるこの研究は堀井教授グループに委ねることとなりました。一方、めいほう睡眠めまいクリニックにおいて、日々苦しむ患者のため、診療に尽力しています。
 新潟大学は当初抗うつ剤であるSSRI治療を主とし、名古屋市立大学グループは認知行動療法を重視しました。この経験を生かして、今年の日本めまい平衡医学会では、当院が考えるPPPDに対する認知行動療法治療効果を報告しました。PPPDの誘因には、実は医療者側の不適切な診断と投薬に誘発される可能性があり、初診時仕切り直しで病巣判定をします。患者に病態解明をするだけで症状が軽快することを経験するため、患者と初対面した時から認知行動療法が始まっている考えを述べました。患者が悪循環に導く認知機能を抱えている限り、単に投薬やリハビリだけを行っても、症状は改善しないことを報告しました。
 さて、今年のめまい学会は新潟大学開催であるゆえ、Staab先生の特別講演が予定され、直々先生に訊きたかった疑問がありました。堀井先生は最近講演で、高齢者は別の理由があって、PPPDとして考えるべきではないことを話されました。さらにショックなことに、高齢者って何歳?と伺うと、60歳以上と。げげげ、私はめまいしてもPPPDとして診断されない???実際の臨床では認知行動療法が高齢者に治療が効くと思うのですが、という強い疑問で気持ちが晴れませんでした。
 Staab先生の講演が終わるや否や、座長の堀教授の許可を得て質問させて頂きました。ここで判明したことがあります。2017年に報告されたPPPDガイドラインは、症状で診断することには疑問ありません。一方、明白な病巣がある疾患でもこの症状を持つ可能性があり、例えば小脳変性疾患の初期などのように、これらを除外するべきとのこと。つまり、PPPDは「機能性障害の疾患であり、器質的障害の関与は除外する」ということを教えて頂きました。
 確かに加齢変化があると、ほぼ全員の聴神経細胞が障害を受け、高音難聴を来します。つまり、めまい神経も退化がみられるため、それが器質的障害と考えると、PPPD診断には適さない、と理解しました。当日討論を聞かれた先生で私の理解に間違いがあったらご指摘下さい。
 最大の問題はここです。小脳変性疾患はめまい専門家なら見逃してはいけないでしょうし、平衡機能検査すれば断定できるでしょう。しかし加齢変化というの個人差が激しいのです。探検家の三浦雄一郎さんは90歳でも富士登山していたので、彼が60歳からめまい神経変性を起こしていると思えないのです。ここで強く否定しているのは、もしかして還暦前の堀井教授に対する爺さんの悪あがきなのかも知れません、笑。
 さて、結論です。PPPDは歴史の浅い疾患で、全て解明がなされた訳ではありません。病態解明で器質的障害が明白になった時点でこの疾患から除外されます。ガイドラインはあくまでも参考であり、この疾患を診断する医師は最低限の平衡学知識を備えられることが期待されています。日本めまい平衡医学会ではめまい相談員という制度があり、研修を受けることで平衡神経の基礎を理解することができます。未だめまい専門医が不足し、沢山の方々がめまい診療に興味を持たれることを祈ります。
 最後に、イベントとしてプロの写真家が学会中の参加者を撮り、最後にweb公開されます。自分が議論している顔はこんなにも不細工のだと、恥ずかしくなってしまいました。長年の参加で写真家の皆さまともお友だちになっただけ、ネタに狙われたのかも知れません、笑。


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