めまいと不安:中日新聞メディカル・トーク2023.8.22.
この面でリレーコラムを二年余り書いたが、私は今回が最終回。この間、内面を公然とさらすことに不安が常にあったが、終筆となると、それもまた寂しい。
それにしても、不安というのは、挙げると切りがないものだ。来院するめまい患者には、既に複数の施設で調べて「異常なし」と言われたことに不安を募らせている人が少なくない。執拗に薬物を求めがちなのだが、服用しても症状が改善したいと不安場倍増。めまいがさらに悪くなる。
近年、このような調べても原因不明のめまいが増えており、世界保健機構も「持続性知覚性姿勢誘発めまい」という新たなる疾病として、研究者に解明を呼びかけている。悪化の一因が不安であることは判明しているものの、現時点完治する治療法はない。哲学者のキルケゴールが二世紀も前に、「不安とは人間の根源的な自由が体験するめまいである」と記して、関係を示唆したことが驚きだ。
どうにかして不安を消したいが、それを考え出すと眠れなくなりそう。哲学者ですら示せない回答を私が出せるとは思わないが、個人的に提案はある。「押してだめなら引いてみな」。
抱けば抱くほど不安が増すなら、一度放り出してみてはいかがだろう。何度も病院に行かず、このコラムの次作が読めないことも気にせず、あまり考えないようにした方が、症状は意外と良くなるかもしれない。