もっとも小さい者に仕える:マタイ25章
残念ながら多くの医療者はいまだ睡眠を疎かにし、重要性に気づかれた場所にノウハウを広めることは惜しみません。今年から大阪公立大学病院で非常勤を務め、教授と一緒に外来診療を行っています。
角南教授が苦悩した17歳男児が初めての診察症例でした。教科書的に診断すれば午前中に血圧が下がる起立性調整障害、朝は血圧を上げる昇圧剤と夜は睡眠薬を出すのが定番。この男児はほぼ夜明けに寝て、昼頃に起きるいわば昼夜逆転の子であります。受診希望は昼間起きられるようにしたいと。登校できないため既に退学し、通信で勉強中。こういう子が昇圧剤で治った試しがないことを教授に伝えると、教授は大変驚かれました。
どれだけ努力しても朝起きられないと落ち込む暗いその子に、これから認知行動療法という方法で治療すると説明しました。
「まずゴールを設定しよう!あなたの希望するゴールは?」
「大学に受かることです」
「大学に受かることと、朝に起きることとなんの関係があるの?」
「・・・・・・」
「睡眠の先生って、無理矢理患者を起こすのが仕事ではないのですよ。あなたがゴールに達することを一緒に考えてあげることですよ。あなたに朝起きなさいと言っているのは、周りの勝手な大人ではない?通信で勉強しているなら、なぜ朝起きなければならないの?」
彼の表情が瞬間に変わり、角南教授曰く、これまで診たことない明るい顔になったとのこと。そして半年後の今日の診察、「大学に受かりました!心理学の勉強に進みます!」ひとりの若者の人生が救えた瞬間でした。もともと心優しい角南教授、そのひと言にしばらく沈黙してうるっとし、「本当に良かった」と話されました。この気持ちをシェアして頂ければ、睡眠医療は今後大阪の地で根付くように感じました。
白い巨塔と呼ばれる大学は頭脳の競い合う場所でもあります。ただ、弊害として頭脳優先が先立ち、心で行う行為は頭脳にとっては邪魔になることと思う輩もいて、大学病院に受診して心を痛めた患者も多かろう。心を無くした頭のいいひとは、もっとも頭の悪い人間であることに気づくことができたら、日本社会がもっと幸福になると感じるのは私だけでしょうか。
もっとも小さい(弱い)者に仕えることの大切さは聖書で語られています。蒼々たるメンバーがいる大阪公立大学医局で名札を作って頂いただけでも感謝がいっぱいです。過去はトップにいましたが、教授から遠くに離れたもっとも低い位置にいる場所から弱い患者のために働くことができて、とても気持ちが良い。