<下畑享良教授との出会い>
親が耳鼻科医だから、知らぬうち耳鼻科医になりました。今だから言える話ですが、耳鼻よりも脳のことに興味がありました。幸い耳鼻科疾患の中に「めまい」があり、最も脳に近い症状でありますが、逆に耳鼻科に興味がある医師には嫌われやすい領域であります。
2000年前後、睡眠時無呼吸症候群を広めた先輩の塩見利明教授から「お前も無呼吸をやれ」と言われ、睡眠センターの副部長を務めました。その10年後、名古屋市立大学耳鼻科教授から「めまい」を、理事長からは「睡眠医療」をやってほしいとの要望があり、「めまい」と「睡眠」、二足の草鞋をどう履こうかと悩みました。ハッと気づくと、めまいと睡眠は「脳」で繋がっていることに気づき、世界で初めて「メニエール病の異常睡眠脳波」を報告しました。
その頃、日本睡眠学会で睡眠と脳に関連した報告をしても誰も興味を持ってくれませんでした。ポスター発表しても誰も立ち寄らない中、一人の先生がそっと声をかけてくれ、その日は二人でマニアな話が止まりませんでした。新潟大学神経内科下畑享良准教授でした。
数ヶ月後、睡眠医療センターの仲間全員連れて、新潟大学にお邪魔し、お互いの仕事を学ぼうと勉強会を開きました(写真左)。その場で聞いた下畑先生のお仕事に感動!難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)に中枢性無呼吸の合併、さらに声帯の異常な動きにより命を落としてしまう可能性があり、対策をすれば患者のQOLが上がり、延命にも繋がると報告されました。さらなる感動はここからです。
ALS患者は脳がどんどん衰え、意識機能を無くしても呼吸管理をすれば延命できることは果たして倫理的にはどうか、と生命の意義について苦悩していることを話されました。大学の研究者は先に進むことだけを考えがちですが、心を持つ先生の人間性に感銘し、このような先生が教授になられたらいいなと思っていました。
数年後、下畑先生は岐阜大学神経内科に就任され、講演に呼んで下さいました。時代は「良性発作性頭位めまい症」が既に学生レベルまで伝わりましたが、一緒に治療を開発したJohn Epley先生との研究や歴史の話を今だからこそと、拙い話を語らせて頂きました。
下畑先生は今でも中部で最も信頼する神経内科医であり、連日SNSで神経内科情報を発信し、先生のウェブを読むだけで勉強になります。多くの神経変性疾患の初期はめまいで発症することは意外と知られていません。開業してからも、どこでも診断がつかずに二年間悩んだ患者が受診し、脊髄小脳変性症を疑い、先生にお送りしたところ、最終診断を下して下さいました。
教授職はどれだけ多忙か、大学にいたので容易に想像がつきます。それにも関わらず学生教育にも精力的に尽力している姿を拝見します。本日フェースブックで繋がっている下畑先生に講演で呼んで頂いたのは5年前、との連絡が来ました(写真右)。自分はこんな小物ですが心から尊敬できる教授と知り合えて幸せです。