天国と地獄
この春から大阪公立(元・市立)大学耳鼻咽喉科で非常勤を務めることとなり、地域を理解したくて前日から滞在しました。西成暴動で知られる南に位置する「あいりん地区」を自分の目でみてみたい、さらに最近道一本隔てて星野リゾートが出来たとのニュース、なぜこの地域に最新の病院、高層のハルカスタワーと高級ホテル、どのように新旧が混在するのか、の謎を解くためでもあります。
道一本隔てたところに天国と地獄が存在することを目の当たりにして口が開きっぱなしでした。前者から後者に移ると喪失感、後者から前者に動くと罪悪感を感じます。
暴動があった頃の人たちは年老い、思ったよりあいりん地区は閑散としていました。午前中に散策したのですが、朝からお酒を飲む風景は期待を裏切りませんでした。近くの商店街はシャッター通りでした。昭和の古い看板を見つめ思いに深けていたら、地元のおじさんが声をかけて来ました。
「オリンピックで消えたのよ、沢山消えたのよ」
「ひと少ないと思ったら、行政がまたあいりん地区を動かしたのね」
「もっともっと消えるよ、万博で」
「おっちゃん住むところあるの?」
「わし色々と補填貰ってっから大丈夫」
と財布を出して色んな書類を見せてくれました。
「一緒に写真とっていい?」
「えーよ」
何よりもこんな感じのひとのいいおっちゃん、一番期待を裏切りませんでした。
新しい施設が特殊な地域に出来たのではなくて、ひとが華やかな計画に気を取られている間に、特殊な空気が入れ換えられたのだと気づきました。彼らは高度成長期を支え、地方から家族をおいて出て来て、底辺の仕事をさせられ、高齢になり、身体が不自由になり地元にも帰れず、それなりに受け入れてくれた世界で生きて来たのが事実で、今その世界もどんどん消されていることに気づきました。
「誰かの犠牲の上に自分が生かされている」、感謝の気持ちを抱き、皆さまに最大の貢献をしたい、気持ちを引き締め今から大阪公立大学病院に向かいます。