院長ブログ

開院以来一番ぞっとした症例

公開日:
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

 めまいになると、患者はまず脳腫瘍、脳出血などの病気を想像して不安になりますが、呂律が回らない、手足が動かない、などの症状がなく、めまい単独の場合、そうである可能性は低いです。近年、容易に脳MRI撮れるので、ただちに生命に危険性を及ぼす疾患はまず見かけることはありません。ところが脳MRIだけ撮って、医療者も患者も安心してしまうことがあるので要注意です。個人的な意見ですが、容易に画像撮影ができるがため、医師の患者を詳細に観察する力量が低下しているように感じます。
 長年めまい専門にやって来て、10年に一度このような患者に出会います。この方は既に脳神経外科含め3カ所の医療施設で異常なしと言われ、家族にも怠けだと言われ、かなり落ち込んでいました。
 入室した時は異変に気づかなかったのですが、検査室に移る瞬間、50歳代の割にはぐらっとした一瞬の動きに違和感を感じ、検査終わった途端データみてぞっとしました。一瞬スムーズに見える指標追跡は左から右でsaccade(上の矢印)、急速眼球運動でところどころ追えずに眼球が静止のまま(下の矢印)。野生の勘が働かなかったら、検査しても見逃すかも知れませんでした。それにしても重心動揺検査をやっている施設が多々ありますが、このデータをみて異常なしというのはなしでしょう。改めて廊下で何度か往復して歩いて貰いビデオ撮影すると、普通に見える歩行が一瞬ぐらっとするシーンがあり、これを見逃したら、こりゃ異常なしと言ってしまうのも無理もありません。
 重い気持ちで患者に、この病気は今後さらに進行する可能性があると伝えたところ、まさかの大きな笑顔で「良かった!」の一言。1年間誰にも理解されず、どんなに苦しんだか、やっと理解してくれる医師が現れたと。心のなかで泣けました。10年前に出会った一例は、進行して3年後に亡くなられた辛い経験を持っているからです。無論このことは言えなかったし、まだ若い方だし、なんとしても救いたい。そう言えば睡眠も専門にしているため、このような患者には必ず聞くことがあります。
「睡眠に異常はないか?」
「最近寝言がひどいです」
「う・・・・」ピンポンと確信した瞬間です。
 信頼する神経内科医のところに通ってほしいと伝えました。え?そんな遠方まで?と聞かれましたが、この疾患が早期過ぎて、理解してくれない神経内科医も多いので、遠くても行ってほしいと強く押しました。早速戻った返信は予測通り「小脳失調症です」、続いて「若いので自己免疫の可能性」が書いてあり、少し心をなで下ろしました。変性症ではなく、自己免疫ならばきっといい免疫療法が開発されているでしょうから、今後は神経内科の先生に委ね、改善して戻って来ることを祈ります。


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