アメリカンドッグ発祥の地
インターネットがない80年代、若者たちは「地球の歩き方」を片手にバックパッカーで世界を回ったものでした。アメリカに憧れてイリノイ州都であるスプリングフィールド市に4年弱住みました。十万人程度の小さい街ですが、アメリカ人で知らないひとはいません。アブラハムリンカーンがこの街で政治を目指し、建国の父となり、そして今でも静かに眠っています。大学の裏に彼が眠る公園があり、平日はまず誰もいません。時々思考がまとまらないとひとりで訪れ、彼と二人っきりで語り合ったものでした。忘れがたい人生の贅沢な空間でした。
こんな小さな街でもうひとつの自慢がありました。どこのコンビニにでもある棒に刺したアメリカンドッグ、街の南にある「Cozy Dog Drive In」が発祥の地であります。イリノイ州はトウモロコシの産地。ちなみにアメリカではコーン・ドッグと呼ぶので、是非訪米した際にアメリカンドッグと言わないように。ジャパニーズ・テンプラとは日本で言わないからね、笑。よく帰り道に立ち寄り、一本食べては二代目であるBuz店長とも楽しく会話したものでした。
アメリカの街は毎年微妙に移動します。あるブロックが寂れると、ひとはその地域を捨て、新しい場所に移ります。当時持って行った「地球の歩き方」の情報が古く、観光客に踏み込んでほしくない地域が載っていると書店に手紙を書いたら、次回号の「スプリングフィールド」を執筆してほしいと依頼され、人生で初めての書籍執筆となりました。
この街でまず日本人を見かけることはなく、当時日本の訪問団が来ると市長に呼ばれて通訳をしたものでした。帰国時には、市長が「名誉市民」と称号を与えて下さり、送別会をして下さいました。勤めたSouthern Illinois University School of Medicineと母校の愛知医大の姉妹校提携を結び、今でも医学生交流が続いているようですが、もはや後進たちは誰もこの歴史を知るよしもありません。遺書のつもりで事実を書き残します。
本の断捨離時に出て来たこの「地球の歩き方」、30年以上記憶が走馬灯のように脳裏を走りました。だから断捨離って進まないよね、笑。