ロングスリーパーの苦悩:2023.1.17.中日新聞Dr'sサロン
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監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰
睡眠の謎は医学的にだいぶ解明されたが、奇病がまだたくさん残っている。その一つが、十時間以上眠らないと翌日すっきりしない病気「ロングスリーパー」だ。朝六時起床とすると、夕方には眠らないといけなくなり、一般の社会生活を営むことが難しいが、的確な治療法がないのが現状だ。
ロングスリーパーは、しばしば過眠症と誤診され、周りから怠け者と誤解されやすい。睡眠専門医を受診しても、長時間眠る以外に解決方法がないと告げられる。大学病院時代に初めて確定診断を告知した中学生の母親は、子どもの将来を案じて号泣した。その姿は心の痛みとして残っている。
開業後、他院でロングスリーパーと診断された女性が受診に来た。症状を抱えながら精いっぱい頑張っているのに、会社の上司の誤解から生じたハラスメントで精神科にも通っていた。活動量計で彼女の生活パターンを測ってみると、六時間なら働けそうだった。問題はそういう職場があるかだ。
解決できないまま投げ出したくない、そう思った途端、「うちで働くか」と尋ねていた。彼女は今、精神治療の必要もなく、楽しそうに働きたいだけ働いて帰るスタイルで勤務し、時に同じ患者へ自分の体験を語っている。医療者の心に患者と同様の痛みがあれば、道が見いだせるような気がする。あの時のお母さまの涙に感謝だ。