院長ブログ

台湾南下グルメ旅 その9(最終編):僕はいつになったらコーヒーを淹れさせてもらえるの?

公開日:
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

台湾から戻り、一週間以上溜まった仕事に忙殺されているうちに、従姉妹のMargaretとの旅行記の最終編がなかなか書けませんでした。最後に心に強く残った出来事があり、この思いをどうまとめるか、しばらく考えこんでいました。
多くいる親戚の中で、Margaretは私と同い年。私は屏東のど田舎育ち、彼女は台北のシティガール、子どもの頃から憧れの存在でした。面白いことに、干支が同じせいなのか、考え方がよく似ており、感受性も、Bグルメが趣味というところも、不思議なほど重なります。
数年前、彼女からお土産にあるコーヒーパックを渡されました。「自閉症のお子さんを持つお母さんが起業して、お子さんと一緒に作ったコーヒーなんだよ」と言われ、その味が自分にどはまりしました。
さて、台湾旅行最後の夕食、何で締めるか。いつも彼女の提案に任せれば間違いはないのですが、なぜか観光客にもよく知られている「饒河街夜市」に連れて行かれました。まだ日が暮れない時間帯、これから混み出す屋台の間をさっさと歩く彼女。あるところで突然「あ!」と大声を上げ、松山教会の前で展示をしている人たちと、興奮気味に抱き合っていました。全く面識のないはずの私を指しながら、「わかるわかる!」と。
売られているコーヒーパックが目に入り、さらに特徴的な雰囲気の男の子を見た途端、私もピーンときました。そうです、あのコーヒーを作った発達障害のお子さんと、そのお母様だったのです。Margaretに私が彼らのコーヒーを応援していることを話していたのでした。
朝起きられない子どもたちが多く訪れる私の外来には、発達障害のお子さんが数多くいらっしゃいます。医学的にまだ解明も治療も追いついていないことに日々悩む私は、この親子がなぜ会社を起業してコーヒーを販売するまでに至ったのか、ぜひ本人たちからゆっくり話を聞きたいと思っていました。
路徳(Root)は幼少期から言葉が出ず、お母様は早くから違和感を覚えていました。やがて自閉症と診断され、治療のために全国、さらに海外まで奔走しましたが、目立った改善のないまま彼は成長しました。コーヒーへの強い興味を持つようになった彼は、世界各国に展開する某有名コーヒーチェーンに障害者枠で採用されました。そのチェーンが丁寧な接客と心地よい空間で知られていることは、多くの方がご存じでしょう。彼はいつかバリスタとして店頭に立つことを強く望んでいましたが、与えられた仕事は裏方での清掃でした。何度店長にお願いしても、言葉がうまく話せないという理由で、店頭に立たせてもらうことはありませんでした。
毎日帰宅するたびに、「今日も掃除だけだった。僕はいつになったらコーヒーを淹れさせてもらえるんだろう」と嘆く息子のひと言が、お母様の心を動かしました。「それなら、一緒に会社を作ってコーヒーを作ろう」——そうして生まれたのが、このコーヒーです。
とても明るく素敵な路徳に会えて、嬉しかったです。コーヒーのことを語らせれば、どこが発達障害なのかわからないほど詳しい。そもそも発達障害とは「特性」であり、何でも平均的にこなせることよりも、誰にも真似できない突出した個性を持つことです。しかし社会は平均点を求めるため、そうした個性は端に追いやられがちです。
この数年間、Margaretに頼んで購入し続けてきたコーヒーを、今回は本人たちの手を通して買えた。そしてその物語を直接聞かせてもらえた。Margaretの思いやりが嬉しく、胸が温かくなりました。
最後にお母様と二人になった時、大人げなく「これ、利益は出ているんですか?」と聞いてしまいました。お母様は静かに首を横に振りました。帰り道、Margaretがぽつりと言いました。「誰でもお母さんの真似はできないよね」と。
発達障害のお子さんたちを外来でお見かけするたびに、こう励まします。今は専門家がいますから、しっかりと専門的な支援を受けてください。発達障害には、他の誰にも真似できない素晴らしいところがあります。それ以外の部分を周りの人たちと補い合えれば、エジソンのように、「天才」と呼ばれる人たちが生まれることはよくあることです、と。
最近「発達障害が増えた」とよく言われますが、私はそうは感じません。過去は社会が蓋をしていただけです。医療がこれほど発達しても、医療だけでは追いつかない。社会全体で支えていかなければならないと、強く思っています。
ふと気づくと、医師の中に発達障害の傾向が高いことは、医療者自身がよく知っていることです。もっともっと医療からの支援が必要だと感じる今日この頃です。
もしよろしければ、以下のURLからこの親子を応援してください。
夢之島珈琲


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