院長ブログ

「町内会って必要?」(第2話:電子化提案の結果・・・)

公開日:
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

<前話のあらすじ>
12年ぶりに回ってきた組長の仕事に向き合ううちに、「そもそも町内会って何のためにあるの?」という根本的な疑問にぶち当たった。高齢化・空き家・担い手不足という現実を前に、回覧板の電子化を提案する手紙を全戸に配布。果たして民意はいかに。
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回覧板が戻ってきた。こんなに回覧板を待ち遠しいと感じたのは生まれて初めてだ。心の中では「きっと一人くらい反対するに決まっている」と自分に言い聞かせた。ショックを受けないための予防線である。残念だが受け入れよう、いつもの回覧板に戻って次の組長にバトンタッチするだけだ、と。
回覧板を開いた。目を疑った。
全員が電子化に「賛成」に丸をつけていた。80歳を超えた老夫婦の二家族までもが。感動以外の言葉が見つからなかった。
早速LINEグループを作成し、全員をつなげてお礼の挨拶を送り、続けて回覧板の内容をPDFで配信した。するとこれまで紙にサインする代わりに、瞬く間に全員から「読みました」の返信が届いた。「電子って読みやすい」というコメントまで添えて。
これまで数十年、回覧板は開けた人間がサインしてすぐ隣へ。12軒を一巡するのに1週間以上かかっていた。それが数時間後には全員が情報をシェアし、この組の全員が電子上で初めて交流した。感動以外の何物でもない。
提案した手前、もう1年組長を務めることになった。電子化のまとめ役として、また次の順番の方がご高齢で難しいという事情もあり、その代理も兼ねて。
ところが、ここで私の悪い癖が出た。調子に乗ったのである。「今度は皆さんで集まって雑談しませんか」と、いきなりオフ会を提案してしまった。
一週間待った。既読にはなる。しかし誰もコメントしない。
幼い頃から母親や学校の先生にしょっちゅう怒鳴られた「調子に乗るんじゃない!」という声が、耳の奥にじわじわと響いてくる……。
ところが一週間が過ぎた頃、ぽつりぽつりと「参加します」の返信が届き始めた。最初に返信してくださった方に個別にお礼を伝えると、「とてもいい活動ですね」と言っていただき、胸をなでおろした。

改めて自分に問う。「町内会って必要?」
ここにいる全員が昭和を生きた人間だ。かつては鍵もかけず、町内の全員が知り合いで気軽に声をかけ合っていた時代の記憶があるはずだ。しかし高度成長期とともに合理化が進み、核家族化が加速し、いつしか子どもたちへの教えは「会ったらこんにちは」から「知らない人には話しかけてはいけない」へと変わった。数十年同じ町内に住みながら、お互いの暮らしも知らず、言葉を交わしたこともない。日本はいつの間にか性善説から性悪説へと傾いてしまったのだろうか。
それでも面白い日本文化がある。お互いに知らぬ顔をしながら、なぜかひそひそ話で「あの家には誰が住んでいて、最近どうらしい」というぼんやりした情報を皆が共有している。
幼い頃から漢字に囲まれた環境で育った私が来日して驚いたのは、江戸時代まで庶民には名前もなく、文字も読めず、すべてが口伝えだったという事実だった。そういえば来日当初に学校でいじめられた理由を思い返すと、周囲の「空気」が読めなかったからだと気づく。しかし「空気」は漠然としていて、誰も教えてはくれなかった。
今やインバウンドで溢れる時代、その「空気」に憧れて日本を訪れる外国人が後を絶たない。しかし性悪説に傾きつつある日本文化は、いつかその「空気」そのものを読めなくなっていくような気がしてならない。それがジェネレーションギャップをさらに深刻にしている気もする。
「空気」が読めない若者が増えているとよく言われるが……せめて「漢字」は読んでほしい。

飲み会に4家族が集まった。長年同じ地域に住みながら、一度も言葉を交わしたことのなかった者同士が、共通の話題と笑いで包まれた温かいひとときを過ごした。
町内会とは、回覧板を回すことが目的ではない。人と人との関係をつなぐことこそが本質であり、それが緊急時の最善の備えとなり、やがて「ここに住み続けたい」と思える街をつくるのではないだろうか。
廃れるものには必ず理由がある。インバウンドで賑わう国として喜ぶだけでなく、今一度、日本文化の良さをこの小さな12軒の中から見つめ直したい。


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