ひとを切り捨てない
10年前ほどのことです。全国の若手医師たちが睡眠を学びたいと名古屋に集まりました。その中で、特にひとり目が輝いていたのは、旭川で活躍している高林先生でした。少し話すだけで、その人の秘めた可能性を瞬時に感じることができました。
私は彼に「そのレベルの考えを持っているのなら、国際的に挑戦してみたらどうか」と伝えました。すると彼は、「医局では鼻つまみ者扱いで、学術の研究もさせてもらえず、外回りばかりさせられている」と答えました。
その一言を聞いたとき、私は心の中に怒りが湧きました。そこの管理者は、自分と異なる意見を言う人に対して威圧的であることを、私も経験していたからです。
彼は優秀な鼻手術の腕を持つ医師で、多くの症例を手がけていました。私は「鼻の通りが良くなると睡眠も改善する。調べてみなさい。私も面倒を見るから」と励まし、英語の論文を書こうと提案しました。
それ以来、彼はメールのやり取りを通じて、人生初めての英語論文を完成させました。その論文は審査でも高く評価され、さらに年度末には日本耳鼻咽喉科学会の表彰も受けました。その一枚の論文をきっかけとして、彼は次々に論文を書き上げていきました。今では、鼻の分野では彼のことを知らない人はいないほどになり、海外でも講演や手術の要請を受けるようになりました。
彼には、睡眠を学ぶ人たちに鼻の重要性を伝えてほしいと願い、私は彼の講演に招き、彼の前座を務めました。
リーダーたちも、後進をどう育てるか悩むことが多いでしょう。ただ、異なる意見を切り捨ててしまうリーダーは、人生の終わり方もまた人から切り捨てられることになるでしょう。SNSの時代だからこそ、若者たちが年長者を見捨てる気持ちも理解できなくはありません。
高林先生の大成を見るたびに、いつでも去ってもいいと思えるほどです。
