「まかり通る診断なき投薬」中日新聞ドクターズサロン2022.10.18.
ある日、胸に痛みを感じ、慌てて病院に飛び込んだとする。医師が聴診器もあてず、検査もせずに薬を処方し外来を終えたら、大半の患者は納得しないしょう。
ところが「眠れない」という一言で、直ちに睡眠薬を出す医師は多い。患者もなぜかこの流れ作業に納得し、その夜から飲み始める。やがて薬物依存につながり、難治性不眠症に陥っていく。
二十世紀になり睡眠治療のガイドラインが整い、国から薬の適正使用も呼びかけられている。それにもかかわらず、前世紀の治療を行っている医療機関は少なくない。
ガイドラインに基づけば、まず行うべきなのは診断だ。なぜ眠れないのかを問診し、しばらく睡眠日誌をつけてもらって治療方針を決める。原因が分かれば、その是正のために「夕食後のうたた寝はやめて散歩を」などと衛生指導をする。これが最初の治療だ。
投薬は、この過程を経ても良くならない時に初めてするもの。依存性のない薬を選び、内服を始めたら数週間後に減薬や休薬を検討する。一貫した計画の下で取り組むのが正しい治療のあり方だ。
これだけ時間がかかる割には、診断でさほど診療報酬は得られないし、せっかちな患者から悪い評判が立つ怖さもある。ハムレットなら「正しい医療を行うべきか、行わないべきか」と悩むだろうか。睡眠専門医療施設には愚問だ。