前期高齢者夫婦の平和な時間
いよいよ前期高齢者の仲間入りをしてしまいました。沢山の誕生日のお祝いのお言葉、心より感謝申し上げます。とはいえ、歳を重ねる数字というのは、どこか他人事のように感じるから不思議なものです。寿命が延びる幸せな時代に生まれたことに感謝しながら、皆さまに見守っていただいた幸福な一日を過ごしました。
もっとも、わが家は記念日をことさら祝う習慣があまりありません。しかも数ヶ月前から講演の依頼をいただいており、依頼された方には誕生日のことは一切告げず、迷わず引き受けました。
どうしても伝えたいことがあったからです。
睡眠障害の患者さんが増え続ける一方、医療者側の対応が追いついていない現実があります。未だにいわゆる精神安定剤が安易に処方され、急速に増えるオレキシン拮抗薬、特に新薬の使い方に多くの医師が戸惑っています。オレキシン拮抗薬はそれぞれの薬剤の個性をよく理解することが肝心で、催眠効果の出方も異なれば、副作用が現れることは逆に薬が効いている証拠でもあります。また、実際の睡眠薬の処方量は精神科よりも一般診療医の方が上回っているにもかかわらず、薬理効果が薄いにも関わらず、製薬会社の営業戦略が精神科中心に動いているため、一般医に十分な情報が届いていないという現実も、きちんと伝えなければなりません。
これまで数多くの講演をさせていただきましたが、今回は錚々たる薬学の専門家が集まる学会で立ち見が出るほどの盛況となり、深く感動いたしました。これ以上の誕生日プレゼントはありません。
歳を重ねた分だけ、忖度なしに業界の裏も表も語れるようになりました。残りの人生を、人類の健康の発展のために費やしていく所存です。
ちなみに、唯一の誕生日らしい時間といえば、講演終了後に写真のカフェでのひとときでした。家内はスマホを懸命に打ち続け、私は講演の余韻にひとり酔いしれる。無言のまま、しかし平和な時間でした。言葉がなくても伝わるものがある、それが熟年夫婦というものでしょうか。
