院長ブログ

その後の白い巨塔・・・

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監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

山崎豊子の「白い巨塔」は、大学医局の闇と教授権力の構図を描いた小説だ。私が小学生の頃の作品だが、まんざら虚像でもない。私が入局した頃まで、教授権力の背景には医師不足があった。すべての医師は大学医局に在籍しなければ臨床教育を受けられず、教授は事実上「医師の派遣業者」として多くの特権を握っていた。
それが今、教授職は苦難ばかりだ。コンプライアンスのもとで給与以外の利益は一切なく、アルバイトなしでは生活できない教授がほとんどである。少しでも気に入らないことがあれば医局員は離れ、若手と肩を並べて当直する教授も珍しくない。患者からの苦情対応に追われ、泣くに泣けない場面も多い。
私自身は開業医の跡継ぎでありながら素直に父の後を継げず、そんな大学に残り続けた。還暦が近づき年下の新教授を迎えた時、自分から去るタイミングだと悟った。今となっては、教授という聖職があまりにも過酷で、日本の医学教育の行方が心から心配である。
ちょうどそこにコロナが来た。大学離れても「アナログマインドを持つおっさんがデジタルを使いこなしたら、新しい研究ができるのではないか」、いつものポジティブ・シンキングが私を救った。後ろ髪を引かれながら、めまいと睡眠に特化した異色のクリニックを名古屋駅前に開いた。不動産屋には「この場所、保険診療では潰れているクリニックが多い」と警告された。開院5年、潰れるどころか非常勤医師3名なしには回らないほど忙しくなった。目的は患者数ではない。患者から学んだことを医師たちに伝え、苦しむ患者を間接的に救いたい、その思いは開業前より強くなっている。
開業に余裕ができ学会活動を再開すると、おもしろいことが起き始めた。講演依頼が増え続け、ついには学会主催の医師向け講習会にまで声がかかるようになった。本来こうした講習会は教授が担うものであり、開業医に依頼が来ること自体が異例だ。昨年の日本耳鼻咽喉科総会・秋季大会では、私の有料講座が掲示された途端に売り切れてしまった。なぜそこまで喜んでいただけるのか。長年大学で培った知識をいかに楽しく、わかりやすく伝えるか、そのため落語の師匠にまでついて話術を磨いてきたからかもしれない、笑。もっとも、いまだに「その日本語おかしい」と家内に怒られることもあるのだが。
今年65歳、毎日が楽しくて仕方ない。元来なら引退後の生活に苦悩する時だが、引退後に新しい医師としての生き方を始めたばかりの新入生の気分だ。横道ばかりの人生だったが、気がつくと自分の道が王道になっていることがある。大学を去ってから出会えた人たちは、大学にいては決して出会えなかった人ばかりだ。大昔私を踏み台にして出世していった過去の人たちにさえ、感謝しなければならないと思っている。
数ヶ月前、思わぬメールが届いた。昨年の売り切れ講義に来てくださったベテラン開業医の先生から、見学したいという丁寧なご連絡だった。地域貢献の高い立派な先生だと伺い、緊張しながら迎えた。
一般耳鼻科とはかなり異なる私の診療を、呆れることなく興味深く見てくださった。開業医の跡継ぎの苦悩、医局時代の葛藤、「人生の本番は還暦から」という共通認識、ひと言伝えれば百を察せる、波長の合う先生だった。あっという間に時間が過ぎ、せっかくならばと名古屋飯でおもてなし。味の好みを聞くと赤味噌の名古屋飯だ大好きとのこと。それならとっておきの店がある。味噌カツ、えびふりゃあ、締めは櫃まぶし。新幹線に乗るまで、笑いの絶えないひとときとなった。
学術に見返りはない。「耳鼻科医は睡眠時無呼吸症に専念し、沢山手術をすべきで、不眠は精神科の仕事だ」と異様な目で見られながらも、黙々と研究を続けてきた変人でもある。しかし時に、学術を介して真の理解者となる友ができる。それがプライスレスの報酬だ。だから学者は辞められない。
この出会いが先生の新たな還暦後のスタートになるよう、心から願っている。


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