院長ブログ

奈良公園前・牛まぶし三山

公開日:
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

 奈良の学会中、どうしても訪れたかった場所があった。半年前、名古屋の駅前クリニックまでいらして下さった若夫婦がどうしているかと気になる。
 奥様が不可解なめまいにかかり、どこに行ってもよくならず、諦めるようにとさえ言われたよう。折しも学会で話題になっていた正体不明のめまい、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)であった。不可解なめまいの裏に必ず誘発する因子が存在する、患者がそれを語るまで待つことがある。
 何世代も続く旅館を女将が宿泊を閉めて料亭のみにし、それを若夫婦が受け継いだ時に「牛ひつまぶし」専門店に改装。次世代の味覚に合わせた変革をした途端、コロナで客足がパタッと消えた。この後のことは聞かなくても若女将がどのように調子を崩したか、想像がつく。というのも話の途中で涙が止まらなくなったからだ。
 学会でPPPDの誘因はなんだろうかという議論が持ち上がったが、座長としてPPPD発症前から隠れている誘発因子があるため、患者の話に傾聴するのみでなく、さらにその前を掘り下げる必要と感じる体験談をしたばかりであった。
 若女将は名古屋に3か月ほど通院し、良くなりましたと笑顔で最後の診察を終えた。店の名前だけ聞いてメモに残した。今回学会よりも、夫妻が元気かと気になって仕方なかった。
 地図を頼りに歩くと、奈良公園入口前に鎮座する由緒ある建物は容易に見つかった。昼時間をかなり過ぎたのにも拘わらず、並んでいる行列が途切れない。カウンター席なら空いていますとすぐに通され、奈良公園を一望する席に座った。メニューをみて目を疑う。高級ローストビーフのひつまぶしが千円強、赤身なのにとろける柔らかさと甘み。さすが元料亭、深みのある出汁で最後はお茶漬けで満腹。
 会計に若旦那が立っているのが見えた。気づかれないよう顔を下げ、支払いを終えた時、「お仕事でいらしたのですか」と声をかけられ、「あの・・・」と言った瞬間、「明峰先生だ!」と気づかれた。良かった、支払い終わっていて、笑。
 最近また調子が悪くなり、名古屋に再受診しようかと思った時だったと若旦那は小声でつぶやき、しばらく私と若女将を二人にし、即席診察。一時は運営の行き先に不安があったが、今はあまりの多忙で休む暇もなく、休日も仕入れで連日仕事。さらにローストビーフはご主人の手製で、奥様が朝から一枚一枚肉の線維をみながらスライスすると。想像するだけでも腱鞘炎になりそうだ。「これだけ見事な味を薄利多売しなくてもいいのに、ひとに任せればいいのに」というも、ひとりでも多くの客に満足してほしいためどうしてもそこは譲れないと。今では地元のお客が大勢来る有名店になったようでほっとしたが、素直に喜べないようだ。
 頑張っても、頑張れなくても、頑張りすぎても、人生って楽じゃないよね。頑張れなくなったら、どこかに助けてくれるひとがいるよ、きっと。突然の訪問で若夫妻がこの後元気になってくれたらいいな。笑顔で行こうや。美味しいひつまぶしとほのぼの夫婦愛のシェアを頂き、往復6km歩いて学会会場に戻った。脚は疲れたが、心は温まった。


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