フィクション or ノンフィクション
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰
5年前、名古屋で睡眠教室を開催し、全国から多くの若者が集まった。特に輝いて見えたT君がいて、話を聞けば北の国で上司に恵まれず、寒い外に放り出された。立派な手術の腕を持ち、さらに学術心があるのに、どうやって論文を書いたらいいかわからない。大学の人間って偉そうにして居られるのは、英文が書けるかどうか程度だと個人的に思うが、大学辞めても無償に彼に学術を伝授し続けられたのは、彼の熱意とフェースブックのお陰だ。何よりも彼の勢いがすごい、牛丼を食べるのも3分以内に拘っている。
T君は自分の分野に初めて睡眠医療を絡めた英文を書いたところ、一発で掲載された。さらに日本の最上位医学誌はその年の日本人が書いた優秀英文を和訳して全員に情報を伝えるコーナーで、彼の論文が紹介された。彼は勢い止まらず次々と論文を書き出した。論文を書く意味は、権力を握るためにやっている人間もいるが、そういう人間が有望のある若者をだめにする、自分が本当に自負する医術があるならば、その方法論は論文を通じて世界のどこかで困っている患者を救うためにあるべきだ、と伝えたことがある。その彼氏は来週からカンボジアで医学教育のボランティアを務め、彼をまたその道に導いているO君と先週大阪で出会った。だめな昭和おじさんがいても、まだまだ日本の若者は頼もしい。
さて、彼と真反対の南の国に、兼ねて小生に何度か睡眠教育の機会を与えて下さったS神がいた。このS神は3年前に全国学会を開催、目玉に睡眠シンポジウムを組んでほしいという光栄な役を頂いた。その時、T君を投入し、彼の仕事を喋らせる予定にした。
開催直前に学会内容を掲載した雑誌がすべての医師の手に届いた。すると驚くことに、何年も会っていないT君の上司が学会の内容をみて、S神に電話をかけ、T君を直ちにシンポジウムから降ろせ!と命じた。その上司はこの学会で確かにかなり上位の役を持っている、だが、耳を疑う事実だ。それに対してS神は、「それはお宅の事情でしょ、学会とは関係ない」と一蹴した。この事実は学会終わってからS神に聞かされたが、事情を知らない私はシンポジウムの朝、その上司と朝食会場でたまたま出会った。「おはようございます」と挨拶するも、面白いくらい、小学校以来のレベルの、「無視」。T君は立派に初めてのシンポジストを務め、彼の存在は彼の領域で多くの目を集めるようになり、今後もその分野を支える重要人物のひとりになると信じている。
S神から急に用があって名古屋行くが時間あるかと聞かれた。恩返しの機会が来た!最上級の場を準備しなくては・・・。
「おーい、T君、めちゃくちゃ無茶ぶり承知の上で聞くが、この夜名古屋まで飯に来られるか」
「う、う、う、翌日昼から仕事が入っているが、なんとか晩飯だけなら・・・」
T君は飛行機で夜に着き、数時間だけ名古屋に滞在し、日が昇る前の飛行機で帰った。
聞けば彼の元上司は引退後あるところに務めたが、なぜか3か月で退職し、今では音信不通らしい。
それに対してS神が残した一言が印象的だった。
「教授職はしんどくて二度とやりたくないが、今となっては全国各地でこうして迎えてくれる人がいることは喜びだ」
この話はおっしまい。なお、上記のこの話はすべてフィクションであり、写真の登場人物は一切合切この話となんら関連があるかどうかはご想像に任せる。