院長ブログ

<心に刺さったトゲが抜けた瞬間>

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監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

 自分を晒すことって簡単に見えますが、そうでもありません。丸裸に色々と書いていますが、還暦を過ぎた頃から、残りの時間を無駄にしたくない、遺書を残す気持ちで人生をまとめています。過去のように心に蓋をするのはやめよう、有言実行の日々を過ごそうなど、と考えています。
 大学で研究第一線を守って来ましたが、開業したらもう誰にも振り向いてくれないでしょう。と思っていたところ、山口大学山下裕司教授から講演依頼を頂きました。山口に向かうならば、心残りでやっておきたいことがひとつありました。
 1979年愛知医科大学に入学した私は、台湾から日本に来てちょうど7年目でした。まともな日本語もできないまま入学し、初めてのひとり暮らし。文化の違いとは言え何も知らず、同級生にたびたび失礼なことをしたように思います。実際、お前は失礼だぞと、当時意味もわからず何度か怒鳴られたことがありました。家族から離れた寂しさで友だちもできず、部屋で悲しい日々に怯えた記憶があります。
 ある時、学校の横にある寮に住む友人が声をかけてくれました。彼は自己紹介で「山本浩二です」、というと、教室の全員が爆笑しました。後監督になった広島カープの名選手と同姓同名だったからです。彼はとても穏やかなひとで、私を気持ちよく下宿に迎え入れ、学校の後はよく彼の部屋に立ち寄りました。彼のところは寮だったため、遊びに行くとそこにいた寮生とまた知り合い、あっという間に沢山の友人ができ、寂しさが薄れて行きました。
 卒後、偶然一度だけ空港で彼に会ったものの、お互い急ぎ足だったため、ゆっくり話ができませんでした。幸いフェースブックで繋がり、投稿でお互いの様子を知ることができるようになりました。そして開院した際、彼からお祝いのお花が届きました。お礼を兼ねて、彼にどうしても伝えたいことがあり、講演会が始まるまで少しでも会えたらと思い、連絡したところ、時間を取ってくれました。
 静寂な住宅地にあるおしゃれなクリニック、久しぶりに再会した同級生は白髪でしたが、35年の間が一瞬にして消え、お互いに学生の気分に戻りました。高台から街中が見える応接間に通された間、「あの時、友だちになってくれてありがとう」の一言が言い出せなかったらどうしよう、とドキドキしました。ソファに腰掛けた瞬間、彼の口から、「あの時田舎から出て来た人間とよく遊んでくれて、ありがとう」と言われてしまいました。
 言いたいことが先に言われ、自分にがっかりした気持ちと、まさか彼から出た想像もしない言葉に戸惑いました。いや、それはこちらが言いたかったことですと台詞を返しましたが、照れと感動する気持ちが入り乱れました。それから1時間あっという間に時間が過ぎ、講演会会場に戻る時間となりました。
 講演会までの間を縫ってまで彼に会いたかったのは、「ありがとう」が言えずにこの世を去ったら、後悔するだろうと思いました。とは言え、多忙な日常にそのようなセンチメンタルは必要だろうかと、変にバランスを取ろうとする邪心もありました。帰り道、彼のクリニックまで出かけたことを本当に良かったと思いました。なぜかというと、心に刺さったトゲが一本抜けた快感を得たからです。


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